ジャズ名作「Fly Me To The Moon」70周年記念コラム ~歴史を辿るカヴァー集~

『新世紀エヴァンゲリオン』への起用でも有名な、ジャズ・スタンダードの定番曲「Fly Me To The Moon」。1954年に作詞/作曲家のバート・ハワードによって書かれた本作は、2024年をもって70周年を迎えます。
そこで今回のコラムでは、「Fly Me To The Moon」の主な歴代カヴァー・ヴァージョンをご紹介し、楽曲の歴史を辿っていくこととしましょう。
記事の最後には関連楽曲をプレイリストにまとめておりますので、ぜひ聴き比べてみてくださいね。
1950年代
本作が初めて披露されたのは1954年、フェリシア・サンダーズによるニューヨークのキャバレー“Blue Angel”での歌唱でした。当時はタイトルが「In Other Words」となっており、拍は3分の4拍子で、現在広く知られるアレンジとはかなり異なっています。ちなみに“In Other Words”という言葉は歌詞にも登場しており、現在においてもカヴァーされる際に「Fly Me To The Moon(In Other Words)」という副題入りのタイトルが付けられる場合もあります。
■KAYE BALLARD/「In Other Words」(1954年)
楽曲が初めてレコーディングされたのは、アメリカの俳優/コメディアンであるケイ・バラードによる歌唱です。1954年にシングルとしてリリースされました。
■JOHNNY MATHIS/「In Other Words(Fly Me To The Moon)」(1956年)
ポップ歌手のジョニー・マティスがレコーディングした本作にて、初めて”Fly Me To The Moon”のタイトルが使われるようになりました。
■FELICIA SANDERS/「In Other Words(Fly Me To The Moon)」(1959年)
フェリシア・サンダーズの歌唱が収録されたのは1959年のこと。当時は『SUMMER LOVE』のB面として発表されましたが、1961年には本作をA面曲としてシングル・リリースされました。
1960~70年代
現代で多く聴かれるアレンジになったのは1962年のことで、作編曲家のジョー・ハーネルによって4分の4拍子のボサノヴァ調に書き直されました。
■PEGGY LEE/「Fly Me To The Moon(In Other Words)」(1960年)
テレビ番組『エド・サリヴァン・ショー』にてペギーが本作を歌唱したことがきっかけで、楽曲の存在が広く知られるようになります。なお、ペギーがバート・ハワードに提案したことで、“Fly Me To The Moon”のタイトルが正式に使用されるようになったと言われています。
■中尾ミエ「月夜にボサノバ」(1963年)
「可愛いベイビー」「片想い」でも知られる中尾ミエが歌唱した日本語詞カヴァー(作詞:池すすむ)で、邦題にもあるようにボサノヴァ・ヴァージョンが採用されています。
■FRANK SINATRA「Fly Me To The Moon」(1964年)
数あるカヴァーのなかで最も有名とされるのが、こちらのフランク・シナトラによる作品。フランク・ヴァージョンの録音テープは1969年にアポロ10号&11号に積み込まれ、人類が初めて月へ持ち込んだ曲としても話題になりました。
■TONY BENNETT「Fly Me To The Moon」(1965年)
フランク・シナトラに「音楽業界最高の歌手」とも称されたジャズ・シンガー:トニー・ベネットも本作をカヴァー。1965年発表の『IF I RULED THE WORLD』に収録されています。
■OSCAR PETERSON TRIO「Fly Me To The Moon」(1970年)
カナダの超技巧派ジャズ・ピアニスト:オスカー・ピーターソン率いる3人組によるカヴァー。ボサノヴァ・ナンバーを中心に採り上げた1970年作『TRISTEZA ON PIANO』に収録されています。
1990年代
1995年よりテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』が放送開始。リニューアル版での使用曲や未使用作品も含めると、数十ものカヴァーがアニメのために制作されました。その中から、以下の3曲をご紹介しましょう。
■CLAIRE「FLY ME TO THE MOON」(1995年)
アニメ本編のエンディングテーマ第一弾として起用されたのが、CLAIREことクレア・リトリーによる歌唱。「Fly Me To The Moon」カヴァー作品の制作にともない、編曲担当であった音楽プロデューサー:大森俊之がロンドンを訪れた際に彼女と出会い、ヴォーカルとして採用されました。
■高橋洋子「FLY ME TO THE MOON」(1995年)
大人気曲「残酷な天使のテーゼ」「魂のルフラン」でも有名な高橋洋子によるカヴァーで、同年にはCLAIRE作品とのカップリングでシングル盤もリリースされました。本ヴァージョンを含む複数のアレンジが制作され、EDテーマに起用されています。
■林原めぐみ「FLY ME TO THE MOON」(1996年)
ヒロイン:綾波レイの声優を担当した林原めぐみが、“Rei”名義で発表したカヴァーです。本編では5、6、23、25、26話で起用されましたが、それぞれが異なるヴァージョンとなっている点に注目。
●5話 ヴァージョン
●6話 ヴァージョン
●23話 ヴァージョン
●25話 ヴァージョン
●26話 ヴァージョン
2000~10年代
■宇多田ヒカル「Fly Me To The Moon(In Other Words)」(2000年)
エヴァンゲリオン作品へ主題歌を多数提供している宇多田ヒカルも本作をカヴァー。『Wait & See ~リスク~』のカップリング曲として2000年に発表され、2007年のリミックス・ヴァージョンが映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』予告編挿入歌に起用されました。
●2000年 オリジナル・ヴァージョン
●2007年 リミックス・ヴァージョン
■ROD STEWART「Fly Me To The Moon」(2010年)
70~80年代を中心に世界的ヒットナンバーを生み出したイギリスのロック・シンガー:ロッド・スチュワートのヴァージョン。アメリカのポップ・スタンダードのカヴァーを集めたアルバム『FLY ME TO THE MOON… THE GREAT AMERICAN SONGBOOK VOLUME Ⅴ』に収録されています。
■八代亜紀「Fly Me To The Moon」(2012年)
2023年12月に惜しくもこの世を去った八代亜紀によるカヴァー。本作は2012年に先行配信限定でシングル・リリースされたのち、同年発表のジャズ・カヴァー・アルバム『夜のアルバム』に収録されました。
■BOBBY CALDWELL「Fly Me To The Moon」(2014年)
AORを代表するシンガーソングライター:ボビー・コールドウェルによるヴァージョン。2014年のアルバム『AFTER DARK』に収録されました。
■SEIKO MATSUDA「Fly me to the moon」(2019年)
松田聖子が”SEIKO MATSUDA”名義でリリースしたジャズ・アルバム『SEIKO JAZZ 2』に収録。本作のMVは本人が監督・演出・脚本を手掛けていることにも注目です。
さて、いかがでしょうか。これほどの長い年数を経ても、国籍・年代・ジャンルを問わず数百を超えるアーティストたちによってカヴァーされ続けており、いかに普遍的な魅力を持った名作であるかがお分かりになったことと思います。
それでは最後に、「Fly Me To The Moon」のカヴァーを集めたプレイリストをお届けいたしましょう。どうぞお楽しみくださいませ。
楽曲利用に関するお問い合わせは是非こちらまで!!
TRO ESSEX JAPAN / ティー・アール・オー エセックス ジャパン
電話:03-3292-2865
メールアドレス:song@shinkomusicsong.com